大判例

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大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)2141号 判決 1983年2月25日

控訴人 株式会社日の出ビル

右代表者代表取締役 堅田静雄

右訴訟代理人弁護士 波貞夫

同 大江篤弥難

被控訴人 岡部二三男

被控訴人 脇田源治郎

被控訴人 魚里物産株式会社

右代表者代表取締役 藤井愿

被控訴人 三村昌平

被控訴人 浜崎美代子

被控訴人 春名洋美

被控訴人 大阪マルチタ株式会社

右代表者代表取締役 井上恭弘

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 中谷茂

同 山崎容敬

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次の点を付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。(但し、原判決六枚目裏三行目の「図る」の次に「ことを」を加え、同八枚目表七行目の「合意解約」を「約定解約権に基づく解約」と、同一二枚目裏一行目の「乗出した同店も」を「乗出し、同スーパも」とそれぞれ訂正する。)

一、控訴人の主張

1.本件賃貸借契約書の第六条に解約に関する条項があるが、同条一項は、賃借人が賃借期間中解約したいときは一ケ月前にその旨を賃貸人に申込み、賃貸人の承認する第三者に賃借権を譲渡しなければならないとしているのであって、右文言は賃借権の譲渡を認めたに過ぎず、解約権を認めたものではない。従って、被控訴人らには賃貸借契約期間中の解約権はない。

2.仮に賃借人に右解約権があるとしても、保証金の返還についての前記契約書第五条に定めた返還期限及び分割返済に関する合意を排除すべき合理的な理由はない。即ち、控訴人は店舗賃借人となることを希望する多数の商人から提供を受けた保証金を投下して市場施設を取得し、これを右商人らに賃貸して市場を経営するのであり、一方賃借人らは自ら多額の資本を投下して店舗用の土地、建物を取得し右店舗で単独の事業を経営するよりも、少額の保証金を市場経営者に提供して市場内の店舗で経営する方が、企業として安全で投下資本の効率もよいと云う計算のもとに店舗を賃借するのである。従って、右賃貸借は、企業活動の場での対等の企業者間の取引であって、借家法の背景にある経済的強者と弱者との間の取引ではない。又他面、本件の如き市場は、店舗の賃貸人と賃借人との共同事業とも云うべきものであるから、かかる事業における見込み違いの責任を賃貸人である控訴人側にのみ負担せしめるのは正当ではない。

二、被控訴人らの主張

控訴人の右主張は何れも争う。

三、証拠<省略>

理由

一、請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

二、被控訴人らは、控訴人は市場内の商人が欠けた場合速やかにこれを補充して市場としての機能を維持すべき債務を負う旨主張するが、当裁判所も右主張は採用し得ないものと判断する。その理由は原判決理由中のこの点に関する認定、判断(原判決一六枚目表一一行目から同一九枚目表三行目まで)と同一であるから、これを引用する。(但し、原判決一七枚目表九行目の「収授」を「収受」と、同裏四行目の「賃貸」を「賃借」とそれぞれ訂正する。)従って、右債務の不履行を前提とする被控訴人らの本件賃貸借契約の解除の主張は失当である。

三、本件賃貸借契約書の六条一項に、賃借人が賃借期間中賃貸借契約を解約したいときは、賃借人は少なくとも一ケ月前にその旨を賃貸人に申込み賃貸人の承認する第三者に賃借権を譲渡しなければならない、旨の条項のあることは当事者間に争いがない。被控訴人らは、右条項は賃貸借期間中の賃借人による解約権留保の約定であると主張するのに対し、控訴人は、右条項は賃借権の譲渡を認めたものであって賃借人に解約権を認めたものではないと主張するので検討するに、右条項が賃貸借期間中に賃借人が賃貸借関係から離脱することを認めたものであることは明らかであるところ、右離脱の方法として、賃貸借契約を解約することと賃借権を第三者に譲渡することとは、明らかに矛盾するが、右条項が「賃貸借契約を解約したいときは(中略)第三者に賃借権を譲渡しなければならない」としたのは、賃借人が賃貸借契約を解約する場合、同人に当該店舗についての新賃借人を確保させることとして、解約による空店舗の生ずることを防止しようとするところにその目的があり、賃借権を譲渡させること自体に意味があるのではないと解されるから、結局右条項は、空店舗を生じないようにさえすれば、賃借人が賃貸借契約期間中でも同契約を解約し得る旨を定めたものと解するのが相当である。従って、被控訴人らは、市場が正常に機能している限り、右条項に基づき、新賃借人の確保と云う条件を満すことによって、本件賃貸借契約を解約し得るものと云うべきである。

四、被控訴人らが昭和五四年一月四日控訴人に到達の書面で本件賃貸借契約解除の意思表示をしたことは当事者間に争いはなく、右意思表示が解約の意思表示としても有効であることは云うまでもないが、右解約に当って新賃借人の確保と云う条件を満していないことは弁論の全趣旨から明らかである。

そこで、右解約の効力について検討するに、原審証人戸田龍馬、同藤原良夫の各証言、原審における被控訴人春名洋美、原審及び当審における控訴人代表者各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、本件市場内の店舗は昭和五二年一一月頃から次々と賃借人が出て行って空店舗となり、同五三年暮頃には市場内の約三三店舗のうち三分の一に相当する一一店舗が閉店状態となったために、市場としての機能を果さなくなり、客足も遠のき、被控訴人らの経営も極度に不振となって赤字が続くようになったこと、被控訴人らは右解約に当り各自の賃借店舗について新たに賃借人となる商人を探したが、右のように市場としての機能を喪失した店舗の借手はなく新賃借人を確保することが不可能であったこと、がそれぞれ認められ、これに反する証拠はない。そして、かかる事態に立至ったことについて、被控訴人らにその責に帰すべき事由があったものと認めるべき証拠がないから(むしろ控訴人には、店舗の賃貸人として、市場を出て行く賃借人が現われだした初期の段階において、前記契約書六条一項に基づき、市場を出て行く賃借人に対して、新賃借人を確保するよう要求することができたものと考えられるが、控訴人において右の努力をしたと認められる証拠がない)、かかる場合被控訴人らは、前記契約書六条一項の合意にかかわらず、無条件で本件賃貸借契約を解約し得るものと解するのが相当である。そうすると、本件賃貸借契約は、前記解約の意思表示が到達した日から一ケ月を経過した昭和五四年二月四日の経過と共に終了したものと云うべきである。

五、被控訴人らが本件賃貸借に当りその主張の各保証金を控訴人に預託したこと、右保証金は一〇年間据置き、一一年目から一〇年間の年賦償還とする旨の約定がなされていることは何れも当事者間に争いがない。そして、当裁判所も右保証金は敷金或いは権利金ではなく、所謂建設協力金と云われる貸金の性質を有するものであり、又右返済に関する約定は借家法六条によって無効となるものではないと判断するのであって、その理由は、右の点に関する原判決理由の認定、判断(原判決一九枚目裏七行目から同二一枚目表五行目まで)と同一であるから、これを引用する。(但し、原判決二〇枚目表六行目の「収授」を「収受」と訂正し、同二一枚目表三行目から同五行目までの括弧書き部分を削除する。)

然しながら、右保証金は貸金の性質を有するとは云え、本件店舗の賃貸借に際し右店舗の建築資金の一部として各賃借人から提供されたものであり、右保証金に関する約定が店舗賃貸借契約書(甲第一号証)中に記載され、その据置期間を賃貸借期間と同一の一〇年間とし、賃借人が賃貸借期間内に賃貸借契約を解約する場合には保証金を新賃借人に引継ぐべきものとされ(右契約書五条五項)、賃借人が賃貸借契約の各条項に違反した場合賃貸人は賃貸借契約を解除すると共に保証金を没収できる旨(同一〇条)が定められていること等からすると、右保証金は店舗賃貸借契約と密接な関連を有するものと云うべきである。そして、本件賃貸借契約書(甲第一号証)の各条項及び弁論の全趣旨によると、保証金の返還に関する前記約定は、市場が正常に機能していて、店舗賃借人が当該店舗で順調に営業を継続することができ、或いは賃貸借契約を解約する場合も容易に新賃借人を探し出すことができて同人から保証金を回収することも可能であることを前提としているものと云うべきであって、本件の如く、市場がその機能を失い、店舗賃借人が賃貸借契約を解約しようとしても新賃借人を見つけ出すことができないような事態をも予測してなされた合意であるとは認められない。そうすると、本件の如き異常な事態の場合における保証金の返還時期、方法については何等の合意も存しないものと云うべきところ、右保証金は貸金の性質を有し、市場の建設に協力する趣旨で市場内の各店舗の賃借人から市場経営者である控訴人に提供されたものであるから、市場がその本来の機能を果し得なくなり、店舗の賃貸借契約も解約によって終了した以上、控訴人が右保証金を保有すべき実質は失なわれたものであって、賃借人から請求があり次第これを返還すべきものであると云わねばならない。

尚、控訴人は、市場の経営は店舗賃貸人と賃借人との共同事業とも云うべきものであるから、右事業における見込み違いの責任を賃貸人にのみ負担させるのは正当ではない旨主張するが、市場の経営が店舗賃貸人と賃借人との共同事業であるとの点は独自の見解であって、右主張は採用し難い。

六、控訴人の相殺の抗弁については当裁判所も原判決認容の限度で正当であるがその余は失当であると判断する。その理由は原判決理由中のこの点に関する認定、判断(原判決二六枚目裏三行目から同二七枚目表三行目まで)と同一であるから、これを引用する。

七、そうすると、被控訴人らの請求を、原判決添付別紙計算表の「認容額」欄記載の各金額及びこれに対する訴外送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五四年二月一〇日以降完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の範囲で認容した原判決は正当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 林義一 稲垣喬)

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